EUのCookie規制(eプライバシー規則)やGoogleのサードパーティーCookie廃止など、Web業界はプライバシー保護のトレンドが年々強まっています。
特にAppleはプライバシー保護に力を入れているIT企業で、iOS 14ではパーソナライズド広告による追跡をユーザー側で拒否できる機能が実装されました。
そして2021年6月より提供が始まったiOS 15ではメールマーケティングに大きな影響を及ぼしうるプライバシー保護機能が実装され、業界に大きなインパクトを与えました。
本記事ではiOS 15で実装されたメールに関連するプライバシー保護機能の概要と、各機能がメールマーケティングにどのような影響を及ぼすか、について解説します。
今のうちに最新のメールマーケティング事情についてきちんと理解し、変化した環境の中で成果を上げていくための体制を整えておきましょう。
iOS 15の標準メールアプリに搭載された機能
iOS 15の標準メールアプリに新しく搭載された機能は、「メールプライバシー保護」と「メールを非公開(iCloud+ユーザー限定)」のふたつです。
そもそもiOS 15はiPhone 6S・iPhone SE(初代)以降のiPhoneに提供されているAppleのモバイルOSですが、最新のOSを利用できるAppleデバイスならすべて先述の機能が利用できます。
つまりiPadの「iPad OS」、Apple Watchの「Watch OS」でも「メールプライバシー保護」と「メールを非公開」が使えるということです。もちろんiMacやMacbookでも同様のことがいえます。
さて、iOS 15の標準メールアプリに追加された新たな機能について、さらに詳しく解説します。
メールプライバシー保護とは?
iOS 15のメールプライバシー保護とは、メールに対するユーザーのアクティビティを企業から隠すことで、メール閲覧におけるユーザープライバシーを向上させる機能です。
参考:iPhoneでメールプライバシー保護を使用する – Apple サポート (日本)
メールプライバシー保護をONにすると以下のようなデータが企業に提供されなくなり、ユーザーとしては「より安心してメールが読める」というメリットが得られます。
- 開封したメールの種類
- 開封した日時
- デバイスの種類
- IPアドレス・位置情報
なお、メールプライバシー保護はあくまでAppleの標準メールアプリを使っている場合のみ機能します。例えばブラウザ上でメールを確認した場合や、サードパーティーアプリを使った場合、メールプライバシー保護は機能しません。
メールを非公開とは?
iOS 15の「メールを非公開」とは、本当のメールアドレスではなく、ランダムに生成されたメールアドレスを利用してWebサービス登録やメルマガ購読ができる機能です。簡単にいえば、手軽に捨てアドレスを生成・使用できる機能といえるでしょう。
ユーザーとしては個人情報としての側面があるメールアドレスを企業に提供せずに済むため、情報漏洩の被害を受けにくくなる、購読解除が容易になる、というメリットが得られます。
なお、「メールを非公開」はiOS 15ユーザー全員が使えるわけではありません。iOS 15ユーザーの中でも、Appleの有料クラウドサービスである「iCloud+」契約者のみが使える機能となります。
iOS 15がメールマーケティングに与える影響
「メールプライバシー保護」と「メールを非公開」は、いずれもユーザーからするとメリットの多い機能です。しかしメールマーケティングを行う企業には、以下のようなデメリットを与える機能といえます。
- 「メールプライバシー保護」をONにしたユーザーのメール開封が計測できなくなる
- 位置情報セグメントが機能しにくくなる
- iCloud+ユーザーのエラーリストが増え、到達率悪化の可能性がある
こうしたデメリットによって、メールマーケティングにどのような影響があるのか、詳しく見ていきましょう。
メールプライバシー保護をONにしたユーザーのメール開封が計測できなくなる
メールプライバシー保護をONにしたユーザーにメール配信を行うと、ユーザーがメールを開封する前に受信サーバー上でメールがロード(開封)されます。
そのため、保護機能をONにしたユーザーの開封率はダッシュボード上で「100%(到達数≒開封数)」となってしまうのです。また、開封した日時も不正確になります。
こうしたデメリットによって、「開封日時を元に配信日時を最適化する」「開封数を基準にセグメント配信を行う」といった、開封を起点としたメールマーケティング手法が今まで通り機能しなくなる可能性が出てきます。
なお、メールプライバシー保護はiOS 15アップデート後に初めてメールアプリを開いたときに必ず案内される機能です。しかも、ONかOFFかどちらかを選ばなければアプリを利用できない仕組みになっています。
機能案内時の表記は「メールのアクティビティを保護しますか? 保護しませんか?」といったニュアンスとなっているため、ほとんどのユーザーはメールプライバシー保護をONにすることでしょう。
もう開封率を見るのは意味がない?
iOS 15ユーザーの開封が計測できなくなるからといって、開封率を見る意味がなくなるわけではありません。なぜなら、AndroidやWindowsなど、Apple以外のデバイスを利用しているユーザーの開封は依然として計測できるためです。
そのため、リストの割合がAppleユーザーに大きく偏っていなければ、一部のメールマーケティング手法は今後も活用できるでしょう。例えば開封率改善を目的にした件名のABテストなどは、引き続き効果的と考えられます。
メールプライバシー保護をONにした位置情報セグメントが機能しにくくなる
メールプライバシー保護をONにしているユーザーは位置情報が不正確になるため、位置情報を利用したセグメント配信が効果的でなくなる可能性があります。
NTTドコモのモバイル社会研究所が行った統計によると、日本におけるiPhoneのシェアは43.1%で1位となっています。そのため、iOS 15ユーザーにだけ関係があるとはいえ、企業によってはメールマーケティングに大きな悪影響が出るかもしれません。
iCloud+ユーザーのエラーリストが増え、到達率悪化の可能性がある
iCloud+の「メールを非公開」は、ユーザーがバーナーアドレスを使ってWebサービスを利用できる機能です。バーナーアドレスは簡単に無効化でき、無効化されたバーナーアドレスは企業側にエラーアドレスとして蓄積されてしまいます。
エラーアドレスにメールを配信し続けるとスパム判定を受けやすくなり、結果としてISPに自社の配信がブロックされやすくなるため、注意が必要です。
なお、「メールを非公開」はiCloud+契約者のみが使える機能で、iOS 15ユーザー全員が使えるメールプライバシー保護と比べると悪影響は限定的と思われます。
しかし、エラーアドレスの蓄積は決して無視できない問題であることは変わりありません。「メールを非公開」の影響が少ないとしても、きちんと対策を取りましょう。
メールマーケティングを行う上でのiOS 15対策
メールプライバシー保護などのiOS 15のメール関連機能を踏まえ、ここからはメールマーケティングを行う上で取っておきたい下記4つの対策について解説します。
- 自社リストのiOS比率を把握する
- 開封を起点にしたセグメントやメール配信を見直す
- クリック率をより重視する
- メール配信システムを使う
自社リストのAppleユーザー比率を把握する
iOS 15のメール関連機能の影響をどれくらい受けるかは、自社の顧客リストのうちAppleユーザー(iOSやmacOS)がどの程度を占めるかによって変動します。もしAppleユーザーの比率がかなり高ければ、iOS 15対策の重要性もそれだけ高いと判断できるでしょう。
なお、メールプライバシー保護は、OSアップデートを行ったあとにメールアプリを開くと必ず案内される機能です。
そのため、iOS 15でメールアプリ使っているほとんどのユーザーはメールプライバシー保護について知っており、なおかつONにしている割合は非常に高いと考えられます。
開封や位置情報を起点にしたセグメントやメール配信を見直す
メールプライバシー保護を企業側が避ける方法は、現在のところ見つかっていません。そのため、ユーザーの開封アクションを元にした以下のようなアプローチは見直す必要が出てくるでしょう。
- 開封によるスコアリング
- 開封・位置情報によるセグメンテーション
- 開封日時を元にした配信日時の最適化
一方で開封率の改善を目的とした件名のPDCAについては、Appleユーザー以外の開封が計測可能なため、依然として効果的と考えられます。
クリック率をより重視する
iOS 15では開封が計測不可となりますが、パラメータを仕込んだURLを挿入してのクリック計測は現在でも可能です。
そのためiOS 15が普及したメールマーケティング環境では、よりクリック率(クリック数 ÷ 到達数)を重視した活動が重要になります。また、ユーザーがクリック先で起こした行動データも同様に重要度が上がると見られます。
今後はメールのコンテンツの質を一層突き詰めることが、メールマーケティングを効果的に行う上でのカギとなるでしょう。
メールマーケティングにおけるiOS 15対策のまとめ
iOS 15アップデートによって、Appleデバイスの標準メールアプリに「メールプライバシー保護」と「メールを非公開」というふたつの機能が追加されました。
これらの機能は、今までの常識を覆すような大きな影響をメールマーケティングに及ぼす可能性があります。どのような機能なのか今のうちに必ず把握しておきましょう。
- メールプライバシー保護
ユーザーのメール開封や、開封時のIPアドレス・位置情報が正しく計測・解析できなくなる機能 - メールを非公開
ユーザーがランダムなメールアドレスを生成してメルマガ購読や会員登録できる機能。生成したメールアドレスは簡単に無効化でき、エラーアドレスと化す。iCloud+契約者のみ使える
現状、これらの機能を根本的に避ける技術的な方法は見つかっていません。自社リストのAppleユーザー比率を把握する、クリック率重視のPDCA、開封起点のアプローチを見直すといった対策を取って、いち早く新たな環境に対応しましょう。