「存じ上げない」は、知らない、理解していない、情報を持っていないという意味を表す表現の中でも相手に対して敬意を示すために使用される表現ですが、正しく使いこなすことは意外と難しいものです。
しかし、「存じ上げない」を使う場面や相手によっては、失礼になったり、誤解を招いたりすることもあります。そのため、「存じ上げない」を正しく使えることはビジネスシーンでのコミュニケーションで不可欠と言えるでしょう。
この記事では、「存じ上げない」の意味と使い方の基本から、類語や言い換え、注意点やマナーなどを紹介していきます。
「存じ上げない」の意味と由来
「存じ上げない」は、「知らない」「わからない」などの謙譲語です。この表現の由来は、古典文学や和歌において頻繁に見受けられる「存じる」にあります。
元来は「思う」という意味の言葉であり、その後、「知る」という意味にも変遷し、謙譲語としても用いられました。
こうして誕生した「存じ上げる」は、更に相手への敬意を強調するために「上げる」を付け足したものです。
「存知上げない」は間違い
「存知上げる」や「ご存知」という漢字表記もあり、意味を考えると「知」の字を当てたくなりますが、「ぞんじ」は「存ずる(存じる)」が変化した謙譲語です。
そのため、正しくはひらがなの「ご存じ」を使用しましょう。
「存じ上げない」の正しい使い方と注意点
「存じ上げない」を使用する際は以下のポイントに注意する必要があります。
- 相手の「知らない」に対しては使わない
- 使う前にクッション言葉を使う
- 物や場所が対象のときには使わない
- 自分から質問をする場合には使わない
まず、そもそも謙譲語であるため、自分が相手のことや関連事項を知らない場合に使用し、相手が知らないことに対して使ってはいけません。
さらに注意するポイントがあるので、1つずつ説明していきます。
相手の「知らない」に対しては使わない
謙譲語は、自分を下に見立て、相手を上に立たせる場合に使います。
「存じ上げない」は謙譲語に当たるので、相手に対して「存じ上げない」を使ってしまうと、相手の立場を下げることになるため、失礼な表現になります。
主語が必ず、自分になるように使用しましょう。例えば、私は社長の居場所を存じ上げません。などが例として挙げられます。
使う前にクッション言葉を使う
「存じ上げません」という言葉だけだと、突き放した表現にならないようにクッション言葉を使用します。例えば、「申し訳ありませんが」や「恐縮ですが」、「恐れ入りますが」などのクッション言葉を使います。
文法的には相手を敬った言葉に分類はされますが、相手の顔が見えないメールでは特に「存じ上げません」とだけ伝えることで、相手からの印象を悪くしてしまう可能性があります。
文章で伝える際には、特に注意して「存じ上げません」を使用しましょう。
物や場所が対象のときには使わない
「存じ上げない」が使われるのは対象が人のときであり、物や場所が対象のときには使われません。物や場所に「存じ上げない」を使用すると、なんとなくでも違和感を感じる人もいるのではないでしょうか。
対象が「物や場所」の場合は「存じております」「存じています」を使用しましょう。
自分から質問をする場合には使わない
「存じ上げない」は知っているかどうかを自分が答えるときに用いられる表現であり、相手への質問をする際には使用しません。気づかないうちに使用されることがありますので、注意が必要です。
なぜなら、日本語では主語を省略し、この質問の主語は相手に対して「存じ上げない」を使用し、マナー違反になるからです。
たとえば、「◯◯商事を存じ上げていらっしゃいますか?」などの形で用いるのは誤りです。このような場合は、「ご存じですか?」「ご存じでいらっしゃいますか?」などの表現を用いるようにしましょう。
「存じ上げない」のメール例文
以下にメールの例文を挙げます。
件名:お問い合わせについて
株式会社〇〇
〇〇様
いつもお世話になっております。
株式会社〇〇の〇〇です。
先日お問い合わせいただきました、弊社の製品に関する資料の送付についてご連絡いたします。恐れ入りますが、資料の送付先のご住所を存じ上げないので、お手数ですがご教示いただけますでしょうか。
お忙しいところ大変申し訳ありませんが、ご返信をお待ちしております。今後ともどうぞよろしくお願いいたします。
上記のように、自分が分からないため教えてほしいニュアンスをつけることが多くあります。
「存じ上げない」を使うシーンやフレーズ
上述した例文はほんの一場面ですが、「存じ上げない」は汎用的な言葉であらゆるシーンで使うことができます。
以下、よく使われるシーンやフレーズをまとめましたので参考にしてください。
- 問い合わせに対する返信で:「ご指摘いただいた件につきましては、私どもでは詳細を存じ上げないため、適切な部署に確認を取らせていただきます。追ってご連絡申し上げます。」
- 提案に対する返信で:「ご提案いただいた新しいプロジェクトについては、残念ながら私どもの方では情報を存じ上げない状況です。詳細をご教示いただけますと幸いです。」
- 会議の内容について尋ねられた際:「その会議については、私は参加しておらず、詳細を存じ上げないのですが、参加された同僚から情報を収集し、ご報告させていただきます。」
- 特定の人物について尋ねられた時:「ご紹介いただいた山田様については、残念ながら私どもでは存じ上げないのですが、関連部署に確認し、必要な情報をお探しします。」
「存じ上げない」の類語や言い換え
「存じ上げない」の代替表現には、「存じておりません」「存じません」「わかりかねます」などがあります。これらの表現も謙譲語を含み、使用する文脈によって使い分けることができます。
「存じておりません」
「存じる」という動詞に否定の助動詞を加えた表現で、「知らない」という意味を持ちます。こちらは、物や場所を対象とした時に使用します。
「いる」の敬語表現である「おる」にする事で、より丁寧な印象を相手に与える事ができるでしょう。
「存じません」
同じく「存じる」に否定の助動詞を組み合わせ、「知らない」を表します。
やや柔らかい印象で、「存じておりません」と比較して使い勝手が広いです。様々なビジネスシーンで利用できます。
「わかりかねます」
「わかる」という動詞に「かねます」を加えた表現です。「かねます」は「しようという意思はあるものの、残念ながらできない」というニュアンスを持たせています。
やや丁寧で控えめな印象で、相手に断りを伝える際に利用されます。
「面識がございません」
知っているけど実際には会ったことがない状態を示します。
まったく知らない場合は「存じ上げない」、自分は知っているが相手は自分を認識していない場合は「面識がございません」と使い分けることができます。
「存じ上げない」の英語表現
英語で「存じ上げません」を表現する時には、”I have no clue.”が適切です。
clueは「手がかり、ヒント」などの意味があります。
もうひとつよく使われる”I have no idea.”がありますが、英語で「存じ上げません・分かりません」を表す表現としてはニュアンスが異なります。
ideaは「ひらめき」の意味がありますので、「存じ上げません」よりは「全く見当がつきません」というニュアンスを含んでいるのです。
まとめ
「存じ上げない」は相手に敬意を示す表現で「知らない」と謙譲語で表現します。相手に対しては尊敬語の「ご存じない」を使用しましょう。
ビジネスシーンで「存じあげません」の英語表現は”I have no clue.”を使うと良いです。
また、相手の質問内容が人物の場合には「存じあげません」、一方で物や場所などの無生物の場合には「存じません」となるので、使い分けができるようにしておくと良いでしょう。
代替表現には「存じておりません」「存じません」「わかりかねます」があり、状況に応じて使い分けることができます。